完全に一人になった。大学を卒業してから就職した会社も辞めた。新しいマンションは父が手配してくれた。東京タワーが一望できる大きな窓の外はしっとりと雨が降っている。思えば、12月にAと出会ってからあっという間に春の気配になっている。春の雨を家の中から見るのが昔から好きだった。傘をさして忙しげに歩く人やレインコートに付着した雨粒、何も考えずにぼーっとする時間が大好きだった。やさしい父は暫くは仕送りをしてくれるらしいので、当面金銭の心配はなかった。OLを十年近くしてきたので、それなりに貯金もある。暫くは何も考えず、欲望のまま生きてみることにする。女性としてはもう充分いい歳だと思うが、新しい自分に生まれ変わろうと思う。今までは、やさしい両親に育てられ、大学とOL生活を適度に遊んで暮らし、それなりにいい男と知り合い結婚した。そして、Aと出会い中途半端な恋をして中途半端な決断をしてしまった。Aにも祐希にも今は会いたいとは思わない。今の決断をしたことも思った程、後悔していない。ただ、今までは周囲に流され普通に生きてきた。春の雨に霞む東京タワーを見ていると今までとは違う何かがしたいと思った。ただ、漠然と。