朝起きて、やかんでお湯を沸かしインスタントコーヒー二杯をカップに入れ湯を注ぐ。卵をフライパンに落とし、黄身が固まるのを待ちながら、コーヒーを飲む。かちかちになるぐらい黄身を固くすると白味はやや焦げた感じになり、マヨネーズをたっぷりとかけて食べる。大学時代のボロアパート生活からの習慣だ。別に大したこだわりなどない。結婚した当時、由美子は面白がって黄身の固い目玉焼きを食べてくれてが、一年もすると別々の朝食になった。このことが原因なんて思わないが、きっかけぐらいになっていたのかも知れない。大学を出て製薬会社のMRとして10年ぐらい経った頃、同じ会社で隣の部署にいた由美子と結婚した。由美子は結婚とともに退社した。このことも、そのきっかけであったのかも知れない。結婚してちょうど10年、少しづつだが確実に溝は大きくなっていた。しばらく、離れて暮らしましょう、由美子からの提案だった。それでも、朝は毎日固い黄身の目玉焼きを食べて、会社に行く。何も変わらない毎日だ。ただ由美子が居ないだけだ。でも、存在がないというだけで、ここ数年居ないのも同然だったのかも知れない。